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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)1517号 判決 1998年1月29日

京都市山科区勧修寺御所内町一一五番地

第一事件原告・第二事件被告

アデックス株式会社

(以下「原告会社」という)

右代表者代表取締役

大前榮

京都市山科区椥辻番所ケ口町二〇五番地

第二事件被告

大前榮

(以下「被告大前」という)

右両名訴訟代理人弁護士

岩田喜好

杉本啓二

右補佐人弁理士

宮井暎夫

京都市山科区勧修寺西金ケ崎三八二番地

第一事件被告・第二事件原告

アール・エス・ティ エンジニアリング株式会社

(以下「被告会社」という)

右代表者代表取締役

山本信行

右訴訟代理人弁護士

太田常晴

伊原友己

三木善續

主文

一  原告会社の被告会社に対する第一事件請求を棄却する。

二  被告会社の原告会社及び被告大前に対する第二事件請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一事件・第二事件を通じ、被告大前に生じた費用は被告会社の負担とし、その余は各自の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  第一事件(原告会社)

1  被告会社は、別紙物件目録記載の抵抗測定装置及びコンデンサー測定装置(以下「イ号製品」と総称する)の製造、販売、展示及び頒布をしてはならない。

2  被告会社は、イ号製品、その仕掛品、電気回路図、配線図、部品配線図、装置組立図、カタログ及び仕様書を廃棄せよ。

二  第二事件(被告会社)

1  原告会社及び被告大前は、連帯して被告会社に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成八年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  仮執行宣言

第二  事案の概要

一  事実関係(争いがない)

1  原告会社の有する権利

原告会社は、次の(一)及び(二)記載の実用新案権(以下、順に「本件実用新案権(一)」、「本件実用新案権(二)」といい、それぞれの実用新案登録請求の範囲の請求項1記載の登録実用新案を「本件考案(一)」、「本件考案(二)」という)を有している。

(一) 考案の名称 偏差値出力回路

登録番号 第三〇〇二五〇八号

出願日 平成六年三月八日(実願平六-一七一一号)

登録日 平成六年七月二〇日

実用新案登録請求の範囲(請求項1)

「計測対象の物理量に比例したアナログ計測値のアナログ標準値からの偏差値を出力する偏差値出力回路であって、

前記アナログ計測値がアナログ帰還入力端子に供給されるデジタル/アナログコンバータ(以下、D/Aコンバータと略す)と、このD/Aコンバータのデジタル入力端子に接続して前記アナログ標準値に対応したデジタル標準値を設定して前記D/Aコンバータに与えるデジタル標準値設定手段と、このD/Aコンバータのアナログ出力端子に入力端子が接続されて出力端子を前記D/Aコンバータのアナログ基準入力端子に接続した出力用反転増幅器とからなり、前記アナログ計測値を前記デジタル標準値で割って規格化するとともに極性反転した規格化アナログ計測値を前記出力用反転増幅器から出力する割算手段と、

前記アナログ標準値を前記デジタル標準値で割って規格化した値である規格化アナログ標準値を発生する規格化アナログ標準値発生手段と、

前記規格化アナログ計測値から前記規格化アナログ標準値を減じて前記偏差値を出力する減算手段とを備えた偏差値出力回路。」(別添登録実用新案公報<1>参照)

(二) 考案の名称 インピーダンス測定装置

登録番号 第三〇〇三六五八号

出願日 平成六年四月二八日(実願平六-四六二〇号)

登録日 平成六年八月一七日

実用新案登録請求の範囲(請求項1)

「共通端子に測定対象物の一方の端子が接触する第1の切換スイッチと、共通端子に前記測定対象物の他方の端子が接触する第2の切換スイッチと、

共通端子に前記測定対象物の一方の端子が接触する第3の切換スイッチと、

共通端子に前記測定対象物の他方の端子が接触する第4の切換スイッチと、

前記第1の切換スイッチの一方の切換端子と前記第2の切換スイッチの一方の切換端子とに一対の電流出力端子をそれぞれ接続し、前記第1および第2の切換スイッチのそれぞれの一方の切換端子側切換時に、前記第1の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の一方の端子との間の接触抵抗および前記第2の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の他方の端子との間の接触抵抗を介して前記測定対象物に一定の電流を流す定電流回路と、

前記第3の切換スイッチの一方の切換端子と前記第4の切換スイッチの一方の切換端子とに一対の電圧入力端子をそれぞれ接続し、前記第3および第4の切換スイッチのそれぞれの一方の切換端子側切換時に、前記測定対象物の一方および他方の端子間に現れる電圧を、前記第3の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の一方の端子との間の接触抵抗および前記第4の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の他方の端子との間の接触抵抗を介して検出して前記測定対象物のインピーダンス対応電圧として出力する電圧検出器と、

前記第1の切換スイッチの他方の切換端子と前記第3の切換スイッチの他方の切換端子とに一対の入力端子をそれぞれ接続し、前記第1および第3の切換スイッチのそれぞれの他方の切換端子側切換時に、前記第1の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の一方の端子との間の接触抵抗および前記第3の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の一方の端子との間の接触抵抗の合成抵抗を測定して第1の接触抵抗対応電圧を出力する第1の接触抵抗測定器と、

前記第2の切換スイッチの他方の切換端子と前記第4の切換スイッチの他方の切換端子とに一対の入力端子をそれぞれ接続し、前記第2および第4の切換スイッチのそれぞれの他方の切換端子側切換時に、前記第2の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の他方の端子との間の接触抵抗および前記第4の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の他方の端子との間の接触抵抗の合成抵抗を測定して第2の接触抵抗対応電圧を出力する第2の接触抵抗測定器とを備えたインピーダンス測定装置。」(別添登録実用新案公報<2>参照)

2  本件考案(一)の構成要件・効果

(一) 本件考案(一)の実用新案登録請求の範囲の記載を構成要件に分説すると、次のとおりである。

A 計測対象の物理量に比例したアナログ計測値のアナログ標準値からの偏差値を出力する偏差値出力回路であって、

B 前記アナログ計測値がアナログ帰還入力端子に供給されるデジタル/アナログコンバータ(以下「D/Aコンバータ」と略す)と、

C このD/Aコンバータのデジタル入力端子に接続して前記アナログ標準値に対応したデジタル標準値を設定して前記D/Aコンバータに与えるデジタル標準値設定手段と、

D このD/Aコンバータのアナログ出力端子に入力端子が接続されて出力端子を前記D/Aコンバータのアナログ基準入力端子に接続した出力用反転増幅器とからなり、

E 前記アナログ計測値を前記デジタル標準値で割って規格化するとともに極性反転した規格化アナログ計測値を前記出力用反転増幅器から出力する割算手段と、

F 前記アナログ標準値を前記デジタル標準値で割って規格化した値である規格化アナログ標準値を発生する規格化アナログ標準値発生手段と、

G 前記規格化アナログ計測値から前記規格化アナログ標準値を減じて前記偏差値を出力する減算手段と

H を備えた偏差値出力回路。

(二) 本件考案(一)の奏する効果は、次のとおりである。

「この考案の偏差値出力回路によれば、アナログ計測値を前記デジタル標準値で割って規格化した規格化アナログ計測値を割算手段の出力用反転増幅器から出力し、アナログ標準値をデジタル標準値で割って規格化した値である規格化アナログ標準値を規格化アナログ標準値発生手段から出力し、規格化アナログ計測値から規格化アナログ標準値を減じた偏差値を減算手段から出力するので、高価なA/D変換器を使用せず、アナログ計測値に対してアナログ処理を行うのみの簡単な構成で、安価にかつ高精度、高分解能で偏差値を出力することができる。また、表示手段を設けることにより、偏差値をパーセント表示することができ、測定対象の標準値からの偏差をひとめで確認できる。さらに、デジタルスイッチの設定を変更することで、デジタル偏差値を変更することができ、したがって比較の対象となるアナログ標準値を変更することができる。この結果、計測対象のアナログ標準値の異なるものへの変更を容易に行うことができる。」(甲二〔願書に添付した明細書。以下「本件明細書」という〕【0028】)

3  原告会社による本件考案(一)及び本件考案(二)の実施品の製造販売等

原告会社は、本件考案(一)及び本件考案(二)(以下、合わせて「本件各考案」という)の実用新案登録出願前から、本件各考案の実施品である「AX-161A型デジタル抵抗チェッカー」、「AX-171A型デジタル抵抗チェッカー」、「AX-312A型デジタル容量チェッカー」(以下、「原告製品」と総称する)を製造し、抵抗器やコンデンサーの製造業者(以下「抵抗器等製造業者」という)及び抵抗器の選別機・テーピング機・塗装コンベア機の製造業者(以下「関連機製造業者」という)に対してこれを販売し、またそのカタログを頒布している。

4  被告会社の行為

被告会社は、平成二年三月一日に設立された計測機器などの製造、販売を業とする株式会社であり、本件各考案の実用新案登録出願前から、イ号製品を製造して、訴外北陸電気工業株式会社外数社の抵抗器等製造業者に販売し、また、訴外高木商会や訴外株式会社コスモリバティを介してイ号製品のカタログを配布している。

5  イ号製品の構成

イ号製品が備えている回路の構成は、本件考案(一)の構成要件に対応して次のaないしhに分説することができる。

a 計測手段の型式表示の(1)ないし(18)においては抵抗値、同(19)及び(20)においては容量値に、比例したアナログ計測値(電圧値)Elnのアナログ標準値Enからの偏差値を出力するもので、

b 前記アナログ計測値Elnがアナログ帰還入力端子RFBに供給されるデジタル/アナログコンバータCON1(以下、D/Aコンバータと略す)と、

c このD/Aコンバータのデジタル入力端子TMに接続してアナログ標準値Enに対応したデジタル標準値nを設定してD/Aコンバータに与えるデジタル標準値設定手段SWと、

d D/Aコンバータのアナログ出力端子OUT1、OUT2に入力端子が接続されて出力端子をD/Aコンバータのアナログ基準入力端子RREFに接続した出力用反転増幅器AMP1とからなり、

e アナログ計測値Elnをデジタル標準値nで割って規格化するとともに極性反転した規格化アナログ計測値マイナスEln/nを出力反転増幅器AMP1から出力する割算手段1と、

f アナログ標準値Enをデジタル標準値nで割って規格化した値である規格化アナログ標準値Es=En/nを発生する規格化アナログ標準値発生手段2と、

g 規格化アナログ計測値マイナスEln/nから規格化アナログ標準値Es=En/nを減じて偏差値Eout(Eln/n-En/n)を出力する減算手段3

h とを備えた偏差値出力回路。

右イ号製品の構成a、b、c、d、e、f、g、hは、それぞれ本件考案(一)の構成要件A、B、C、D、E、F、G、Hを充足する。

また、イ号製品は、本件考案(二)の実施品でもある。

6  本件訴訟(第一事件及び第二事件)に至る経緯

(一) 原告会社は、平成三年四月一一日、京都地方裁判所に対し、被告会社が製造、販売している抵抗測定装置は、原告会社が製造、販売している製品と同一又は類似のものであり、被告会社は、これを原告会社の取引先に販売し、しかも、原告会社の仕様書とほとんど同じ仕様書を頒布するなどしており、このような行為は正当な自由競争の範囲を超え、原告会社の営業活動を違法に妨害するものであると主張して、被告会社外七名を被告として損害賠償請求訴訟を提起した(京都地方裁判所平成三年(ワ)第七二二号)。被告会社は、右訴えに応訴するとともに、同年一〇月二八日、同裁判所に対し、原告会社が被告会社の営業活動を不当に妨害したと主張して、原告会社及び被告大前の両名を被告として損害賠償請求訴訟を提起した(京都地方裁判所平成三年(ワ)第二三六五号)。

右両事件(以下、合わせて「前訴」という)は併合審理され、平成六年一二月二日、末尾添付の「和解条項」どおりの内容の訴訟上の和解が成立した。

(二) この間、原告会社は、平成六年三月八日本件考案(一)について、同年四月二八日本件考案(二)についてそれぞれ実用新案登録出願をし、同年七月二〇日、同年八月一七日に実用新案登録を受けた。

(三) 原告会社は、被告会社に対して、平成七年四月一七日付内容証明郵便により、イ号製品は本件各考案の技術的範囲に属する旨警告する文書を送付するとともに、別便にて各登録実用新案公報及び実用新案技術評価書を送付した。

(四) 原告会社は、平成七年五月一八日、大阪地方裁判所に対し、被告会社が製造、販売しているイ号製品(但し、RE3011F型コンデンサー測定装置を除く)及びRE1011型コンデンサー測定装置は、本件各考案(但し、(19)RE6011H型コンデンサー測定装置については、本件考案(一)のみ)の技術的範囲に属するから、これらを製造、販売することは本件各実用新案権を侵害するものであると主張して、その製造販売等の差止等を求める仮処分を申し立てた(平成七年(ヨ)第一三二七号。以下「先行仮処分事件」という)。

大阪地方裁判所は、平成七年一二月二一日、本件各考案は、その出願前から、実施品である原告製品及び各構成要件を備えたイ号製品が製造、販売されていたことにより、出願前に公然知られ、公然実施をされたものというべきであり、その各実用新案登録には明白な無効原因があるから、保全の必要性を欠くとの理由で、先行仮処分事件の申立てを却下する旨の決定をした。

(五) 原告会社は、平成八年二月一六日、本件実用新案権(一)に基づき第一事件の訴えを提起し、被告会社は、これに応訴するとともに、同年三月七日、第二事件の訴えを提起した。

二  本件訴訟における請求

1  第一事件

原告会社は、被告会社に対し、被告会社が製造、販売しているイ号製品は、本件考案(一)の技術的範囲に属するので、イ号製品を製造、販売する等の行為は本件実用新案権(一)を侵害するものであると主張して、実用新案法二七条一項に基づきイ号製品の製造、販売、展示及び頒布の停止を、同条二項に基づきイ号製品、その仕掛品、電気回路図、配線図、部品配線図、装置組立図、カタログ及び仕様書の廃棄を求める。

本件考案(一)の実用新案登録請求の範囲は、本件明細書によれば、争いのない前記一の2(一)のとおりの構成要件に分説するのが相当であり、同5のとおりイ号製品の各構成が右各構成要件を充足することも当事者間に争いがなく、したがって、イ号製品は本件考案(一)の実施品に相当するが、被告会社は、本件考案(一)は出願前に公然知られ、公然実施をされた考案であり、その実用新案登録には無効原因があるから、その技術的範囲は本件明細書記載の実施例に限定され、あるいは第一事件の請求は権利の濫用に当たり許されない旨主張するものである。

2  第二事件

被告会社は、原告会社による本件各実用新案権に基づく先行仮処分事件の申立て及び本件実用新案権(一)に基づく第一事件の訴えの提起は、被告会社に対する不法行為を構成すると主張して、原告会社及び原告会社の代表取締役である被告大前に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償として一〇〇〇万円及びこれに対する第一事件の訴え提起の日である平成八年二月一六日より後の同年三月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  争点

1  本件考案(一)は実用新案登録出願前に公然知られ、公然実施をされたものであり、したがって、その実用新案登録には無効事由があるか。

2  前訴における和解によって、原告会社は本件実用新案権(一)に基づく差止請求権を放棄したものであるか。

3  原告会社の第一事件の請求は、権利の濫用に当たるか。

4(一)  先行仮処分事件の申立て及び第一事件の訴えの提起は、不法行為を構成するか。

(二)  不法行為を構成する場合、被告大前の責任の有無並びに原告会社及び被告大前が被告会社に対して支払うべき損害金の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(本件考案(一)は実用新案登録出願前に公然知られ、公然実施をされたものであり、したがって、その実用新案登録には無効事由があるか)について

【被告会社の主張】

1 本件考案(一)の実用新案登録出願前から、原告会社は、その実施品である原告製品を製造、販売し、そのカタログを頒布し、被告会社は、実施品に相当するイ号製品を製造、販売し、そのカタログを頒布しているのであるから、本件考案(一)は出願前に公然知られ、公然実施をされた考案である。

したがって、本件考案(一)の実用新案登録には無効事由があり、その技術的範囲は、本件明細書記載の実施例に限定されるところ、本件考案(一)の実施例(本件明細書第2図)においては、D/Aコンバータとして、BCD入力タイプのものを使用しているのに対して、イ号製品においては、バイナリー入力タイプのものを使用しているから、イ号製品は本件考案(一)の技術的範囲に属しない。

2 原告会社は、原告製品及びイ号製品が、本件考案(一)の実用新案登録出願前に製造、販売されていたこと自体は認めながら、なお本件考案(一)が出願前に公然知られ、公然実施をされたとはいえない旨主張するが、かかる主張は次のとおり失当である。

(一) 被告会社が原告会社から原告製品を買い受けたことがないことは認めるが、被告会社が原告製品のカタログを適法に入手しうることは、原告会社の自認する(【原告会社の主張】1末尾)とおりであり、原告会社は、商社等を通じて、あるいはエレクトロニクス関連商品の展示会(見本市)などで、相手方を限定することなく広くカタログを頒布しているのであって、被告会社も、これによって原告製品のカタログ(乙一六)を入手したものである。

また、原告会社は、原告製品は特定の抵抗器等製造業者や関連機製造業者に納入され、これらの業者のもとでは部外秘として扱われている旨主張するが、被告会社は、平成三年三月八日、原告製品のユーザーである日本ケミコン株式会社(以下「日本ケミコン」という)から原告製品AX-312A型デジタル容量チェッカー(乙一七)、平成五年三月二日、同じく中紀精機株式会社(以下「中紀精機」という)から原告製品AX-151A型デジタル抵抗チェッカー(乙一六)の修理を依頼されて、その工場の設置場所に赴いたり製品を持ち帰ったりして修理を行っているのであるから、原告製品が部外秘として扱われていることなど全くない。

原告会社は、被告会社が右修理に際して守秘義務を負っている旨主張するが、全く根拠のない事実や推測を羅列して主張するものにほかならない。原告会社主張の「ご案内」における「創業者」や職歴の記載は虚偽ではない。原告会社の顧客は、被告会社の従業員らが原告製品の設計開発の実働者であることを承知し、その技術を高く評価していたが故に、被告会社の設立後はイ号製品を購入し、また、イ号製品だけでなく、第三者の製品や原告製品の修理まで被告会社に依頼しているのである。

(二) 更に、被告会社は、本件考案(一)の実用新案登録出願前から、イ号製品を販売する(例えば、平成二年一一月にイ号製品RE3011F型を日本ケミコンに販売した。乙二二、二三)については、販売先との間で第三者への譲渡、製品の分解・解析を禁止する特約や技術内容に関する秘密保持契約を締結するようなことは一切していない。それどころか、販売先において、ISO規格等の要件を充足するために計器類の正確性を維持する必要から、独自にイ号製品の外装を外して内部の定期点検を行っている。

現に、原告会社は、被告会社の販売先である中紀精機からイ号製品(検甲一の1~4の被写体であるRE1601型、検甲二の1~3の被写体であるRE1701型)を譲り受けて、その回路を解析し、図面を作成して先行仮処分事件を申し立て、第一事件の訴えを提起しているのである。イ号製品入手の経緯について原告会社が述べるところは、イ号製品は当業者(原告会社)が第三者を介して容易に入手できることを自ら示すものである(もっとも、被告会社は、たとえ購入しようとする者が当業者であっても、販売を拒否するようなことはない)。

(三) 原告会社は、原告製品やイ号製品及びそれらのカタログを不特定多数人が見たり入手したりしたとしても、原告製品やイ号製品の電子回路の解析が極めて困難でほとんど不可能である旨主張する。

(1) しかしながら、原告製品やイ号製品の回路の回路基板は単層であるので基板の両面を見れば回路の配置は一目瞭然であるし、使用されているICその他の部品も、部品自体にメーカー名や型式が明示されているので、当該メーカーが発行しているデータブック(甲九ないし一一)を参照することにより当該部品の機能は直ちに判明するから、これらをもとに技術内容を理解し、回路図を作成することは多少の技術力のある者なら、たとえ当業者でなくとも極めて容易である(本件考案(一)における割算回路は、甲第一一号証記載の回路図と同じである)。

(2) 原告会社提出の鑑定書(甲一六)によっても、原告製品の解析が可能であることが明らかである。更に、同鑑定書のいうカスタムチップについては、イ号製品には搭載されておらず、通常の既製品が使用されているため、イ号製品はより一層解析が容易である。

解析に要する期間も、当業者の技術水準では右鑑定書に記載されているような期間を要することはありえない。解析に要する費用は、当業者が社内で解析する場合にはそもそも問題とならないし、たとえ一七七万五〇〇〇円を要したとしても(解析の費用の相場からは突出しているが)、今後のビジネスに役立つ資料を得られるのであるから、安いものである。解析によって電子部品等の損傷が生じて再利用できないというが、このことと解析が容易であるかどうかとは関係がない。

(3) 原告会社は、イ号製品は原告製品のほとんど丸写しであるから、容易に解析することができた旨主張するが、イ号製品RE1701型においては、被告会社が、人間工学に基づいて、独自に、操作部は右側へ、コネクタは左側へというように原告製品AX-171A型とは異なる構造設計を行ったものであって、その結果、回路基板上の部品配置も全く異なるものとなった。このように銅箔線の位置、形状、長さ、間隔等を異にする回路基板についても、原告会社はその電子回路の構成を解析したのである。

【原告会社の主張】

実用新案登録出願前に日本国内において公然知られた考案あるいは公然実施をされた考案というためには、取引の当事者以外の者が、製品若しくはカタログを入手し、現実にこれらを観察し、考案の内容を認識したこと、又は入手した製品若しくはカタログを見て考案の内容が認識されたと推定できることを要するところ、原告製品及びイ号製品についてそのような事情は認められないから、本件考案(一)は出願前に公然知られあるいは公然実施をされたものではない。

1 原告会社は、原告製品あるいはカタログを、抵抗器等製造業者や関連機製造業者に販売しあるいは頒布しているだけであって、被告会社のような抵抗器やコンデンサーの測定機器の製造業者(以下「測定機器製造業者」という)に対して販売しあるいは頒布したことはない。

原告製品は、抵抗器等製造業者の工場において抵抗器やコンデンサーの自動生産ラインに組み込まれた抵抗器の選別機・テーピング機・塗装コンベア機といった関連機に装着されて使用されるところ、抵抗器等製造業者は、この自動生産ラインに自社の技術上の知識や技能を投入しており、これらが社外に漏れることを極度に警戒しているため、競業者である抵抗器等製造業者はもちろん、原告会社や被告会社のような測定機器製造業者も見ることができないし、入手することもできない。このように、原告製品は、特定の抵抗器等製造業者や関連機製造業者に納入され、これらの業者のもとでは部外秘として扱われていて、第三者に公表されておらず、また、被告会社のような測定機器製造業者が入手していない。原告会社は原告製品を展示会に出展し、カタログを置いているので、被告会社のような測定機器製造業者がカタログを入手し、原告製品の外観を見ることはできるが、原告製品の内部を見ることはできない。

2 被告会社が、平成三年三月八日に日本ケミコンから修理を依頼されたというAX-312A型デジタル容量チェッカー(乙一七)、及び平成五年三月二日に中紀精機から修理を依頼されたというAX-151A型デジタル抵抗チェッカーのうち、後者は本件考案(一)の実施品ではない。

しかも、このように被告会社が日本ケミコン及び中紀精機から修理を依頼され、製品を預かって(各工場内に立ち入ったことはない)修理をしたとしても、以下のような特殊な事実関係と守秘義務を負う状態のもとでのことであるから、右製品が公知の状態になったものとはいえない(右両社が、原告会社及び被告会社以外の不特定多数人に修理を依頼したわけではない)。すなわち、被告会社は、平成二年一〇月、原告会社の顧客に対して、「アール・エス・ティ エンジニアリング株式会社代表取締役山本信行(元アデックス株式会社取締役)」との記載を冒頭に掲げた文書(甲一二)及び「ご案内」と題して「代表取締役 山本信行 元アデックス(創業者)取締役技術課長」、「平山憲司 元アデックス(創業者)技術係長」などと記載した文書(甲一三)を配布し、これら被告会社の業務に従事している者があたかも原告会社の創業者であり、あるいは原告会社の製品の技術内容を熟知しているかのように強調して、原告会社の製品の補修、調整の注文を取得しようとした。そのため、原告会社の顧客は、<1>被告会社の役員や従業員の中に、原告製品の製造に関する作業に従事していたことにより、その構造を熟知している者がいる、<2>原告会社以外の者に原告製品の構造を漏洩してはならないとの約定で原告製品の製造の注文を出していたことを被告会社の役員や従業員が知っているので、被告会社に修理、調整を依頼して原告製品を預けても、その構造を第三者に漏洩することはない、<3>顧客がその工場内における原告製品の使用状況について原告会社を含め第三者に対して秘密としていることをこれらの者も知っているので、被告会社に原告製品の修理、調整を依頼しても、原告製品の使用状況を覗いたり、使用状況を第三者に漏洩したりすることはない、と思い込んで、被告会社に対し原告製品の修理、調整を依頼した。被告会社の代表者や従業員も、原告会社在職中にその勤務を通じて、右<1>ないし<3>のことを知っていたので、顧客から特に指示されるまでもなく、前記の秘密を守らねばならないことを知り、守秘義務を負担した上で、修理、調整の依頼を受けたのである。

3 イ号製品(検甲一の1~4の被写体であるRE1601型)については、原告会社は、先行仮処分事件を申し立てるに当たり疎明資料を得るために、中紀精機に購入を依頼し、同社の名義で被告会社からイ号製品を購入して入手したものであって、この協力なくしては入手が不可能であった。これは、被告会社がイ号製品を右中紀精機及び原告会社の顧客以外の不特定多数の業者には販売していないからである。したがって、イ号製品は、本件考案(一)の実用新案登録出願前に公然知られ、あるいは公然実施をされた状態にあったとはいえない。

また、イ号製品のカタログについては、被告会社は、原告会社の顧客である抵抗器等製造業者や関連機製造業者に配布したが、これ以外の不特定多数の業者に配布していない。したがって、被告会社は、前記2のような被告会社と原告会社との間の特別な事情を顧客に通知した上で(甲一二、一三)、右カタログを配布しているのであるから、これによってイ号製品が公然知られたことにはならない。

4 仮に、原告製品やイ号製品及びそれらのカタログを不特定多数人が見たり入手したりしたとしても、「計測対象の物理量に比例したアナログ計測値のアナログ標準値からの偏差を出力する偏差値出力回路」に関する本件考案(一)の技術的思想は、原告製品やイ号製品の外観とカタログのみで知ることはできず、原告製品やイ号製品の内部を解析しなければ知ることができないところ、この解析は極めて困難でほとんど不可能であるから、本件考案(一)は出願前に公然知られ、あるいは公然実施をされた考案には当たらない。

(一) 原告製品やイ号製品及びそのカタログには製品内の電気回路は図示されていないし、カタログには、「概要」の項に「設定した標準値(測定抵抗値)に対する被測定抵抗値の偏差値・・・表示ができます」と記載されていて、「設定した抵抗値と被測定抵抗値との偏差を表示する」機能を有する抵抗チェッカーであることが示されているのみであって、そのような機能を生じせしめるための技術手段は何ら示されていない。

(二) 原告製品の技術内容を知るためには、製品を分解し、中に組み込まれている二ないし六枚の電子回路基板のすべてについて電子回路の解析を行う必要があるところ、その作業手順は、概略次のようなものである。

<1> 器体の表面の表示部の単位とカタログの測定各確度欄の記載から、測定対象物である抵抗器の標準抵抗値と測定抵抗値とを比較して、その偏差を比率(%)で出力表示するものであることを認識する。

<2> 右<1>の認識を前提として、器体の表面、裏面を観察し、その各表記をメモする。

<3> 器体の外板を取り外し、内部のコネクタ(接続ソケット)の接続を外し、四ないし五枚の基板を器体から取り外す。

<4> 取り出した個々の基板の表面と裏面の写真を撮影する。

<5> 個々の基板上に各電子部品が固着されている状態の見取図(拡大実装図)を画き、各部品の品名、型式を記入する。

<6> 個々の基板上に固着されている各電子部品のハンダを加熱して溶かし、電子部品を基板から取り外し、その状態で基板の写真を撮影する(この電子部品の取外し作業によって、これら電子部品は破損し、再使用できない)。

<7> 個々の基板毎に、電子部品の装着されていない状態の拡大見取図を画く。

<8> 右拡大見取図と各基板を照らし合わせて、銅箔線とスルーホール(貫通孔)を辿って、電子部品、電子素子接続図及びピン接続図を画く。

<9> 右<8>の電子部品、電子素子接続図及びピン接続図と実装拡大図とを照合しながら、電子回路を解析して電子回路図を画く。

<10> 右電子回路図を点検して誤記を訂正する。

<11> 電子回路図から、機能別に類別して機能ブロック図を作成する。

<12> 電子回路図及び機能ブロック図から電気的動作と出力信号を読み取って、回路基板の中に用いられている技術思想を認知する。

<13> 以上の解析結果の正当性を検証する。すなわち、前記電子回路図に基づいて回路基板のパターン図を作成し、そのパターン図に基づいて電子回路基板を作製し、電子部品、電子素子を購入して取り揃え、これらを右基板に接続した上で、測定対象物である抵抗器を所定の端子に接続して駆動し、その結果が表示部に表示されているか否かを確認し、表示されなかった場合は、再度解析作業を当初の手順に従って行う。

右のような作業は、測定機器製造業者といえども非常に根気を要する作業である。特に、右<8>のピン接続図の作成は、銅箔線とスルーホールを辿り、何度も基板を裏返したり表に戻したりしながら図を画く作業であるところ、電子部品の個数が多く、また、銅箔線の本数が多く、その銅箔線が表面からスルーホールを通って裏面へ、更に裏面から表面へと延長していたり大きく迂回したりしていることから、重複して辿ったり辿り漏れをしたりすることのないように十分注意しなければならず、高度の集中力と長時間の根気を必要とし、延べ数百時間の作業時間を要することになる。その上、解析のために要する費用は、製品価格(一九万八〇〇〇円ないし五八万円)の数倍以上であり、しかも、解析のために電子素子を基板から取り外す際、基板、銅箔線あるいは電子素子等に損傷を与え、その修復は困難である。

したがって、原告製品を分解し解析することは、物理的に可能ではあっても、作業時間、作業経費の面から極めて不経済であり、法律的評価として極めて困難であるといわなければならない。

イ号製品についても、本件考案(一)にかかる技術を用いている以上、その各電子回路基板を解析することは、同様に時間と費用がかかり、かつ電子部品等の損傷が生じて、極めて困難であることが明白である。

(三) 現に、大阪電気通信大学工学部電子機械工学科教授竹田晴見の平成九年五月九日付鑑定書(甲一六)によれば、原告製品AX-171A型デジタル抵抗チェッカーの電子回路を解析するためには、合計四二五時間の実働時間、四か月弱の期間及び一七七万五〇〇〇円の報酬費用を要した。更に、その解析の検証作業に六か月の期間を要し、右の他に多額の費用がかかることになる。

しかも、同鑑定書では、<1>74HC373(=IC12及びIC13)の使用目的は不明(接続先のコネクタCN22が未実装であったため)、<2>μPD65005C(=IC17)の内容は不明(μPD65005Cがカスタムチップであるため)とされ、<3>九〇%の解析は可能であるが、残りの一〇%については、デジタル変換した測定結果にカスタムチップのμPD65005Cにより何らかの処理を与え出力しているので、解析が非常に困難であるとされ、この電子回路基板の解析が非常に困難である旨の鑑定の総合結論が示されており、<4>機能ブロック図は、その「二重積分型A/Dコンバータ」「デジタル表示変換回路」「7セグメントデジタル表示」が本件明細書の第1図のうちの「4 表示手段」と共通しているが、本件考案の技術内容のうちで中核となる第1図のうちの「1 割算手段」「2 規格化アナログ標準値発生手段」「3 減算手段」に該当するブロックの存在が図示されていないから、右解析によっては、本件考案(一)の技術の存在及び内容が知られていないことが明白である。

以上のように、原告製品の電子回路の解析は、学識者にとっても極めて困難であるから、当業者にとっても極めて困難であることが明白である。

(四) 原告会社は、前記3のようにして入手したイ号製品を解析してそれが本件考案(一)にかかる電子回路を用いていることを容易に知ることができたが、それは、イ号製品における各基板の形状・大きさ、銅箔線の位置・形状・長さ・間隔、電子部品の品名・機能・型式・機能・装着の位置、スルーホールの位置が、原告製品のAX-161A型、AX-171A型とほとんど同じであり、原告製品に実装されている電子部品のうち別注品については、被告会社において入手不能のためその機能を代用する市販の電子部品に置き換えられているが、この部分は僅かであって、原告製品のほとんど丸写しといってよいからである。

二  争点2(前訴における和解によって、原告会社は本件実用新案権(一)に基づく差止請求権を放棄したものであるか)について

【被告会社の主張】

イ号製品はいずれも、前訴において原告会社及び被告大前と被告会社外七名との間で平成六年一二月二日に和解が成立した時点において、既に製造、販売されていたものであり、前訴の紛争の対象製品であった。一方、原告会社は、右和解成立時点において、既に本件考案(一)について実用新案権の設定登録を受けていたのであるから、形式上、差止請求権を有していた。

したがって、右和解の清算条項(第四項)の効力は、本件実用新案権(一)に基づく差止請求権にも及び、原告会社は右和解によって差止請求権を放棄したものである。

【原告会社の主張】

前訴は、原告会社が、被告会社外七名(原告会社の元従業員)を相手方として、被告会社が製造、販売しているRE1601型・RE1701型抵抗チェッカー及びその仕様書は、原告会社製のAX-161A型・AX-171A型デジタル抵抗チェッカー及びその仕様書と同一又は類似のものであり、これを原告会社の顧客に販売しているため、その影響により右原告会社の製品の販売額が減少したと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求を行い(京都地方裁判所平成三年(ワ)第七二二号)、また、被告会社が、原告会社及び被告大前を相手方として、原告会社は、被告会社製のRE1701型抵抗チェッカーの商品テストデータの一部をねつ造して、これを被告会社の顧客に配布し、被告会社の営業を妨害したと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求を行ったもの(同平成三年(ワ)第二三六五号)であるから、前訴における和解の清算条項は、右RE1601型、RE1701型の二機種の販売についての不法行為に基づく損害賠償請求権の存在を当事者が再び主張することができないとするものにすぎない。前訴において、原告会社は、本件実用新案権(一)に基づく侵害差止請求権については何ら主張も請求もしていないし、その登録実用新案公報、実用新案技術評価書、右評価書を提出し警告する旨の書面も証拠として提出していないから、本件実用新案権(一)に基づく侵害差止請求権は右和解の紛争の対象になっていない。したがって、原告会社は、前訴における和解の清算条項により本件実用新案権(一)に基づく差止請求権を放棄したものではない。

なお、和解条項における清算条項の解釈については、第一審において、貸金債権が「調停の対象」になっていたとして、清算条項の効果によって右債権の請求が棄却されたのに対し、第二審において、調停事件において貸金債権の主張がなく、借用証が証拠として提出されていないこと等を理由に、右債権が「調停の対象」になっていなかったとして、右債権の請求を認容した裁判例(東京高等裁判所昭和六〇年七月三一日判決・判時一一七七号六〇頁)がある。

三  争点3(原告会社の第一事件の請求は、権利の濫用に当たるか)について

【被告会社の主張】

原告会社の第一事件の請求は、権利の濫用に当たり許されない。

1 争点1及び争点2についての主張のとおり、原告会社、被告会社とも、本件考案(一)の実用新案登録出願前に、既にその実施品である原告製品、イ号製品を製造、販売しており、しかも、右出願は、前訴における和解協議が継続して行われていた最中になされたものであり、その登録後に、前訴につき和解が成立した。更に、その後、原告会社は、先行仮処分事件を申し立てたが、十分な審理を経た上で、申立てを却下する旨の決定がなされた。

2 にもかかわらず、原告会社は、考案の全部公知に関する認定、解釈について、独自の見解に立ち、不合理かつ理不尽な第一事件の訴えを提起した。

原告会社は、被告会社が零細企業であって、仮処分や訴訟に応訴するのに必要な費用や事務的負担が相当な営業的損失を与えると知った上で、被告会社を苦しめるためだけに訴えを提起したものであり、到底、正当な権利行使、司法制度の利用と評価することはできない。

【原告会社の主張】

第一事件の訴えの提起が権利の濫用に当たるとの主張は争う(後記四争点4(一)についての【原告会社及び被告大前の主張】参照)。

四  争点4(一)(先行仮処分事件の申立て及び第一事件の訴えの提起は、不法行為を構成するか)及び同(二)(不法行為を構成する場合、被告大前の責任の有無並びに原告会社及び被告大前が被告会社に対して支払うべき損害金の額)について

【被告会社の主張】

1 原告会社による本件各実用新案権に基づく先行仮処分事件の申立て及び本件実用新案権(一)に基づく第一事件の訴えの提起は、前訴の和解条項を無視した、紛争の不当な蒸し返しであり、また、本件各考案の実用新案登録に公知、公用という明白な無効原因があることを知りながらあえてなされたものであるから、明らかに実用新案権の濫用的行使及び濫訴に当たり、被告会社に対する不法行為を構成する。

(一) 原告会社は、原告会社、被告会社とも、本件各考案の実用新案登録出願前に既にその実施品である原告製品、イ号製品を製造、販売していることを知悉しながら、しかも、前訴における和解協議が継続中に、実用新案法の改正により無審査主義が導入されたのを奇貨として、本件各考案について実用新案登録出願をして登録を受けた。

その後、前訴において和解が成立したにもかかわらず、原告会社は、本件各考案にかかる特許庁の実用新案技術評価書における評価がたまたま「6」(特に関連する先行技術文献を発見できない)であったことから、本件各実用新案権を行使するという形で前訴を蒸し返すことを思いつき、前訴における訴訟代理人弁護士とは別の本件訴訟代理人弁護士に委任して、イ号製品の製造販売の停止を求める前記第二の一6(三)記載の平成七年四月一七日付警告書を被告会社に送付した。

これに対して、被告会社は、本件訴訟代理人弁護士に委任して、前訴の和解調書の写しを添えて本件各考案は出願前全部公知の考案であること、既に前訴の和解によって解決済みの事件であることを説明した回答書を送付し、無用な紛争を回避すべく理解を求めた。

(二) しかるに、原告会社は、先行仮処分事件を申し立てたので、被告会社は応訴を余儀なくされた。しかも、原告会社、被告会社とも京都に所在する会社であるのに、前訴が係属した京都地方裁判所を避けて、わざわざ大阪地方裁判所に申し立てた。

先行仮処分事件の手続においても、原告会社は、イ号製品のパンフレット(乙九の1~5)やイ号製品を紹介した記事を掲載した雑誌(乙一一、一三)を疎明資料として提出するについて、本件各考案の出願前に発行されたものであることを示す発行年月日を隠蔽し、あたかも出願後に発行されたものであるかのように偽装して提出した。すなわち、文献を書証として提出するに当たっては、文献の出典を明確にするため、該当頁の外、当該文献の表紙及び裏表紙も提出するのが通常であるところ、それではパンフレットや雑誌の表紙に記載された発行年度により、これらが本件各考案の実用新案権の登録出願前のものであって、本件各考案は出願前全部公知の考案であるとの指摘を受けることが明らかであったことから、ことさら表紙(乙一〇の1、一二、一四)を書証として提出せず、裏表紙が表紙であるかのように写しを作成して提出し、また、被告会社が右(一)のとおり原告会社からの警告書に対して回答書を送付しているにもかかわらず、内容が原告会社に不利であることから書証として提出せず、被告会社があたかも警告を無視して侵害行為を継続しているかのような誤解を生じさせる奸策を弄した。

(三) そして、原告会社は、本件各考案はいずれも出願前に公然知られ、公然実施をされたものであるとして先行仮処分事件の申立てが却下され、本件各実用新案権の権利行使が不適切であることが明白になったにもかかわらず、執拗に本件実用新案権(一)に基づき第一事件の訴えを提起し、更なる手続的、費用的負担を被告会社に課するに至った。

2(一) 被告大前は、原告会社の代表者であるから、右原告会社の不法行為について、原告会社と連帯して責任を負うというべきである。

(二) 原告会社の不法行為により被告会社が被った損害は、次の(1)ないし(4)のとおりであって、その合計は一〇〇〇万円である。

(1) 被告会社の喪失した有償業務時間の損害 六〇八万五〇〇〇円

被告会社は、わずか六名のエンジニアが設立した零細企業であり、従業員に代替性がなく、各人がそれぞれの分野で最大限の業務をこなしてようやく経営が成り立っていく企業である。

したがって、原告会社の濫訴等の不法行為に対応を余儀なくされることは、被告会社にとって相当な費用、時間及び労力の浪費であり、経営に直接悪影響を及ぼす。原告会社は、被告会社の右経営の実情を知りながら、敢えて先行仮処分事件を申し立て、第一事件の訴えを提起したのであり、被告会社が右不法行為の対応に費やした営業時間は、かかる不法行為がなければ本来の業務に費やすことができた、失わずに済んだはずの貴重な有償業務時間であるから、その損失は当然補填されるべきであり、内訳は次のとおりである(被告会社におけるタイムチャージは、従業員一名一時間当たり五〇〇〇円)。

<1> 平成七年四月一七日付警告書に対応するために本件各考案の内容の検討及び対応協議、弁護士との協議に要した有償業務時間(四名×八〇時間〔一〇日間〕すなわち延三二〇時間)の損害 一六〇万円

<2> 先行仮処分事件における原告会社の申立書・準備書面の検討、書証の作成等に要した有償業務時間(延八五二時間)の損害 四二六万円

<3> 大阪地方裁判所における審尋期日への出頭に要した有償業務時間(福知山営業所勤務の平山が五期日出頭し〔七時間×五日〕、京都本社勤務の森が二期日出頭した〔五時間×二日〕延四五時間)の損害 二二万五〇〇〇円

(2) 先行仮処分事件についての大阪地方裁判所における審尋期日への出頭に要した交通費 五万八九〇〇円

<1> 福知山営業所勤務の平山の交通費(JRの福知山駅・大阪駅間の往復七七八〇円の五期日分) 三万八九〇〇円

<2> 京都本社勤務の森の交通費(タクシーによる被告会社・京阪三条駅間、京阪電車による京阪三条駅・淀屋橋駅間の往復一万円の二期日分) 二万円

(3) 営業誹謗行為に基づく慰謝料 三五万六一〇〇円

原告会社の被告会社に対する不法行為は、前訴における和解を無視し、形式的には存在する本件各実用新案権の行使に名を借りた巧妙な紛争の蒸し返しであって、しかも、イ号製品は、被告会社の製造、販売する装置のほとんどすべてであるため、万が一、イ号製品の製造販売の差止命令が発令されれば、被告会社の倒産は必至という状況にあり、慎重な対応をせざるをえない。かかる状況下における被告会社の従業員らの精神的な重圧は相当なものであり、これら無形の精神的損害も当然慰謝されてしかるべきであるが、それ以上に、被告会社が原告会社から仮処分及び訴えを提起されているという事実自体が、営業上、被告会社の製品に対する信頼を損ない、被告会社の信用を失墜させている。すなわち、被告会社の製品を巡って裁判になっていると聞くと、取引先は、それだけで、いつ何時裁判所から販売差止命令が出されるかもしれないと誤解して、その製品の購入を差し控えるのが通常であり、そのような仮処分の申立てあるいは訴えの提起がいかに濫訴であっても、被告会社としては、取引先の抱く悪印象を拭い去ることはなかなかできない。

このような営業誹誘行為的な濫訴によって被告会社に生じた無形の損害は看過できないものであり、法人に対する慰謝料として賠償されるべきである。

(4) 弁護士費用 三五〇万円

およそ実用新案権に基づく警告及び仮処分の申立て、更に本案訴訟に対応するには、専門家である弁護士に委任せざるをえないのであるから、その弁護士費用も前記不法行為に直接起因する財産的損失に当たる。その内訳は、次のとおりである。

<1> 前記警告書に対する対応 一〇万円

<2> 先行仮処分事件の申立てに対する応訴 九〇万円

<3> 第一事件の訴えに対する応訴 一五〇万円

<4> 第二事件の訴えの提起 一〇〇万円

【原告会社及び被告大前の主張】

1(一) 訴訟の提起ないし保全処分の申立てをした者が敗訴した場合において、右訴訟の提起ないし保全処分の申立てが相手方に対する違法な行為となるのは、当該訴訟ないし保全手続において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたのにあえて訴えの提起ないし保全処分の申立てをするなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。

(二) 原告会社は、本件各考案について特許庁の実用新案技術評価書において「6」の評価を受けていたことに加えて、公知公用に関する裁判例(東京高等裁判所昭和三七年一二月六日判決・行集一三巻一二号二二九九頁)、公然実施に関する裁判例(東京地方裁判所昭和四八年九月一七日判決・無体集五巻二号二八〇頁、東京高等裁判所昭和五四年四月二三日判決・無体集一一巻一号二八一頁、同裁判所昭和五四年五月三〇日判決・取消集昭和五四年六八五頁、同裁判所昭和六〇年三月二九日判決・特企一九七輯五三頁)及び和解条項における清算条項の解釈に関する前記裁判例並びに文献を十分に検討した結果、本件各考案は、その実用新案登録出願前に原告製品及びイ号製品が製造、販売されていたことによっては、公然知られたことにも公然実施をされたことにもならないし、前訴における和解の清算条項によっては本件各実用新案権に基づく差止請求権を放棄したことにもならないと判断して、先行仮処分事件の申立てをした。

そして、右申立てを却下した決定を分析した結果、同決定が本件各考案は出願前に公然知られ、公然実施をされていたとする理由に承服することができず、ただ、原告製品の電子回路基板を解析して回路図を作成することが困難であることにつき裁判所の理解を得るためには、専門家による鑑定がどうしても必要であると考え、右却下決定に対する即時抗告という方法を選択せずに、本案訴訟の提起(第一事件)という方法を選択したものである。

(三) したがって、先行仮処分事件の申立て及び第一事件の訴えの提起に当たり、原告会社は、その主張する権利が法的根拠を欠くとは考えていないし、事案の内容からして通常人であれば容易に法的根拠を欠くとの判断ができるものでもないから、被告会社に対する違法な行為となるものではない。

2 被告会社の前記2の主張はすべて争う。

第四  当裁判所の判断

一  争点1(本件考案(一)は実用新案登録出願前に公然知られ、公然実施をされたものであり、したがって、その実用新案登録には無効事由があるか)、争点2(前訴における和解によって、原告会社は本件実用新案権(一)に基づく差止請求権を放棄したものであるか)、及び争点3(原告会社の第一事件の請求は、権利の濫用に当たるか)について

1  前記第二の二1記載のとおりイ号製品の構成が本件考案(一)の構成要件を充足することは当事者間に争いがないが、一方、同一3記載のとおり、原告会社が、本件考案(一)の実用新案登録出願前から、その実施品である原告製品(AX-161A型デジタル抵抗チェッカー、AX-171A型デジタル抵抗チェッカー、AX-312A型デジタル容量チェッカー)を製造し、抵抗器等製造業者(抵抗器やコンデンサーの製造業者)及び関連機製造業者(抵抗器の選別機・テーピング機・塗装コンベア機の製造業者)に対してこれを販売し、またそのカタログを頒布しており、そのカタログは、第三の一【被告会社の主張】2(一)、【原告会社の主張】1のとおり被告会社のような測定機器製造業者も入手できること、第二の一4、5、二1記載のとおり、被告会社が、本件考案(一)の実用新案登録出願前から、その実施品に相当するイ号製品を製造して、北陸電気工業株式会社外数社の抵抗器等製造業者に販売し、また、高木商会や株式会社コスモバリティを介してイ号製品のカタログを頒布していることも当事者間に争いがなく、被告会社は、右の原告製品及びイ号製品の製造販売並びにそのカタログの頒布により、本件考案(一)は実用新案登録出願前に公然知られ、公然実施をされた考案であるから、本件考案(一)の実用新案登録には無効事由がある旨主張する。

考案は、物品の形状、構造又は組合せにかかるものであるから、その実施品が販売されれば、販売した製品を購入先が第三者に転売したり分解したりしてはならないというような条件が付けられていたり、あるいは製品を分解すれば形状、構造又は組合せを把握することができなくなるほど破壊されてしまうというような特別の事情のない限り、通常、当業者を含む不特定多数の者がこれを入手し、分解してその形状、構造又は組合せを把握することは容易なことであり、したがって原則として公然実施をされたものというべきところ、原告会社は、(1)原告会社は、原告製品あるいはカタログを、抵抗器等製造業者や関連機製造業者に販売しあるいは頒布しているだけであって、被告会社のような測定機器製造業者(抵抗器やコンデンサーの測定機器の製造業者)に対して販売しあるいは頒布したことはなく、原告製品は、特定の抵抗器等製造業者や関連機製造業者に納入され、これらの業者のもとでは部外秘として扱われていて第三者に公表されておらず、また、被告会社のような測定機器製造業者が入手していない、(2)仮に原告製品やイ号製品及びそれらのカタログを不特定多数人が見たり入手したりしたとしても、「計測対象の物理量に比例したアナログ計測値のアナログ標準値からの偏差を出力する偏差値出力回路」に関する本件考案(一)の技術的思想は原告製品やイ号製品の外観とカタログのみで知ることはできず、原告製品やイ号製品の内部を解析しなければ知ることができないところ、この解析は極めて困難でほとんど不可能であるから、本件考案(一)は出願前に公然知られ、あるいは公然実施をされた考案には当たらない、と主張するので、以下、この点について判断する。

(一) 証拠(乙一七、一九、二一、原告会社代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告会社は、本件考案(一)の実用新案登録出願前に、わが国有数の電子機器・電子部品製造メーカー(各種コンデンサー・半導体・精密パーツ・エレクトロニクス機器の製造販売)である日本ケミコンの外、株式会社東京ウエルズ、日東工業株式会社、北陸電気工業株式会社等多数の関連機製造業者に原告製品を販売していたことが認められるところ、本件全証拠によるも、原告会社主張のようにこれらの業者のもとで部外秘として扱われているとか、その販売に際し、販売した原告製品を第三者に転売したり分解したりしてはならないというような条件が付けられていたり、あるいは原告製品を分解すれば形状、構造又は組合せを把握することができなくなるほど破壊されてしまうというような特別の事情があるとは認められない。

逆に、右乙第一七号証(サービスレポート)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、平成三年三月八日、日本ケミコン宮城工場から、原告製品のうちのAX-312A型デジタル容量チェッカーについて、測定不能を理由に修理の依頼を受け、同月一三日、測定電流-電圧変換部の「オペアンプIC」及び「スチコン」の異常のためこれらの交換を伴う修理をしたことが認められる。このことについて、原告会社は、被告会社が日本ケミコンから修理を依頼され、製品を預かって(工場内に立ち入ったことはない)修理をしたとしても、特殊な事実関係と守秘義務を負う状態のもとでのことであるから、右製品が公知の状態になったものとはいえないと主張し、その「特殊な事実関係と守秘義務を負う状態」について、被告会社は、平成二年一〇月、原告会社の顧客に対して、「アール・エス・ティ エンジニアリング株式会社代表取締役山本信行(元アデックス株式会社取締役)」との記載を冒頭に掲げた文書(甲一二)及び「ご案内」と題して「代表取締役 山本信行 元アデックス(創業者)取締役技術課長」、「平山憲司 元アデックス(創業者)技術係長」などと記載した文書(甲一三)を配布し、これら被告会社の業務に従事している者があたかも原告会社の創業者であり、あるいは原告会社の製品の技術内容を熟知しているかのように強調して、原告会社の製品の補修、調整の注文を取得しようとしたため、原告会社の顧客は、原告会社以外の者に原告製品の構造を漏洩してはならないとの約定で原告製品の製造の注文を出していたことを被告会社の役員や従業員が知っているので、被告会社に修理、調整を依頼して原告製品を預けても、その構造を第三者に漏洩することはないなど、前記第三の一【原告会社の主張】2の<1>ないし<3>記載のように思い込んで、被告会社に対し原告製品の修理、調整を依頼し、被告会社の代表者や従業員も、原告会社在職中にその勤務を通じて右<1>ないし<3>のことを知っていたので、顧客から特に指示されるまでもなく、前記の秘密を守らねばならないことを知り、守秘義務を負担した上で修理、調整の依頼を受けたのである旨主張する。しかし、右甲第一二、第一三号証には、右原告会社主張のような記載のあることが認められるものの、文書全体からみれば被告会社が原告会社と別法人であることを示していることは明らかであり、被告会社が原告会社と業務提携をしているというような記載もないのであって、本件全証拠によるも、原告会社の顧客が、原告会社以外の者に原告製品の構造を漏洩してはならないとの約定で原告製品の製造の注文を出していたという事実自体、したがって、そのことを被告会社の役員や従業員が知っているという事実、原告会社の顧客が、被告会社に修理、調整を依頼して原告製品を預けても、その構造を第三者に漏洩することはないなどと思い込んで被告会社に対し原告製品の修理、調整を依頼したとの事実、被告会社の代表者や従業員も、原告会社在職中にその勤務を通じて右<1>ないし<3>のことを知っていたので、顧客から特に指示されるまでもなく、前記の秘密を守らねばならないことを知り、守秘義務を負担した上で修理、調整の依頼を受けたとの事実は、一切認められない。

したがって、原告製品は、本件考案(一)の実用新案登録出願前から、当業者である被告会社のような測定機器製造業者を含め、不特定多数の者が入手しうる状態で販売されていたものといわなければならない。

(二) また、証拠(乙一九、二二、二三、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、本件考案(一)の実用新案登録出願前に、イ号製品を日本ケミコン、株式会社東京ウエルズ、北陸電気工業株式会社等に販売し、イ号製品のカタログを頒布していたこと(一例として、平成二年一〇月、日本ケミコン宮城工場からイ号製品のうちのRE3011F型デジタル容量チェッカー一台の注文を受け、同年一一月九日同社に納品した)、株式会社東京ウエルズは、自社でも抵抗器等の測定機器を独自に製造、販売する技術力はあるが、営業政策的見地により被告会社からイ号製品のOEM供給を受け、これを搭載してテーピング機を製造し松下電器産業株式会社やローム株式会社等に販売していること、被告会社は、そのイ号製品の販売に際し、販売した製品を購入先が第三者に転売したり分解したりしてはならないというような条件を付けたりすることはないことが認められる。

したがって、イ号製品もまた、本件考案(一)の実用新案登録出願前から、当業者である原告会社のような測定機器製造業者を含め、不特定多数の者が入手しうる状態で販売されていたものといわなければならない。

現に、証拠(乙一五、検甲一の1~4、二の1~3、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件考案(一)の実用新案登録出願後の平成六年一〇月のことではあるが、原告会社は、中紀精機に依頼して被告会社からイ号製品のうちの二機種(RE1601型・RE1701型)を購入してもらってこれを入手したことが認められる。この点について、原告会社は、中紀精機の協力なくしては入手が不可能であったとし、これは被告会社がイ号製品を右中紀精機及び原告会社の顧客以外の不特定多数の業者には販売していないからであると主張するが、被告会社は、前記のとおり販売した製品を購入先が第三者に転売したり分解したりしてはならないというような条件を付けたりすることなく、イ号製品を日本ケミコン、株式会社東京ウエルズ、北陸電気工業株式会社等に販売していたのであるから、たとえこれらの業者が原告会社の顧客でもあるとしても、不特定多数の者が入手しうる状態でイ号製品を販売していたことが明らかである(原告会社が中紀精機にイ号製品の購入を依頼したのは、被告会社が原告会社の元取締役や従業員が設立した会社であって、これを相手に訴訟等を提起することを考えていたため、実際上の問題として、原告会社の名義では購入しづらかっただけのことであると推認される)。イ号製品のカタログについても、被告会社は不特定多数の者が入手しうる状態でこれを頒布していたことが明らかである。

(三) 右(一)及び(二)のように、原告製品及びイ号製品は、本件考案(一)の実用新案登録出願前から、当業者である被告会社や原告会社のような測定機器製造業者を含め、不特定多数の者が入手しうる状態で販売されていたものといわなければならないところ(これに反する原告会社の主張は、いずれも採用できない)、原告会社は、前記のとおり、「計測対象の物理量に比例したアナログ計測値のアナログ標準値からの偏差を出力する偏差値出力回路」に関する本件考案(一)の技術的思想は、原告製品やイ号製品の外観とカタログのみで知ることはできず、原告製品やイ号製品の内部を解析しなければ知ることができないところ、この解析は極めて困難でほとんど不可能であると主張するが、証拠(乙一九、被告代表者)によれば、原告製品、イ号製品とも、その電子回路基板は単層であり、原告製品(甲八の1~3)及びイ号製品(甲七の1~3、乙九の1~5)の各カタログによりこれらがいかなる働きをする装置であるかを認識した上で、原告製品及びイ号製品の各電子回路基板に実装されたICなどの電子部品についてはそれ自体に印刷されたメーカー名や型式等により当該メーカー発行のデータブック(例えば甲九ないし一一、乙二五、二六)を見てその機能を知り、電子部品を基板から取り外した上で銅箔線とスルーホールを辿って配線の状態を把握するなどして電子回路基板を解析し、回路図を作成することは、少なくとも原告会社や被告会社のような測定機器製造業者であれば容易であり、当業者でなくとも前記日本ケミコンほどの技術力のある会社であれば容易であることが認められる。

原告会社は、電子回路解析の作業手順は前記第三の一【原告会社の主張】4(二)の<1>ないし<13>記載のとおりであり、このような作業は測定機器製造業者といえども非常に根気を要する作業であり、特に<8>のピン接続図の作成は、銅箔線とスルーホールを辿り、何度も基板を裏返したり表に戻したりしながら図を画く作業であるところ、電子部品の個数が多く、また、銅箔線の本数が多く、その銅箔線が表面からスルーホールを通って裏面へ、更に裏面から表面へと延長していたり大きく迂回したりしていることから、重複して辿ったり辿り漏れをしたりすることのないように十分注意しなければならず、高度の集中力と長時間の根気を必要とし、延べ数百時間の作業時間を要することになる上、解析のために要する費用は、製品価格(一九万八〇〇〇円ないし五八万円)の数倍以上であり、しかも、解析のために電子素子を基板から取り外す際、基板、銅箔線あるいは電子素子等に損傷を与え、その修復は困難であるから、原告製品を分解し、解析することは物理的に可能ではあっても、作業時間、作業経費の面から極めて不経済であり、法律的評価として極めて困難であるといわなければならず、現に、大阪電気通信大学工学部電子機械工学科教授竹田晴見の平成九年五月九日付鑑定書(甲一六)によれば、原告製品AX-171A型デジタル抵抗チェッカーの電子回路を解析するためには、合計四二五時間の実働時間、四か月弱の期間及び一七七万五〇〇〇円の報酬費用を要し、更に、その解析の検証作業に六か月の期間を要し、右の他に多額の費用がかかることになる旨主張する。しかし、原告製品AX-171A型デジタル抵抗チェッカーの電子回路を解析するために要したという合計四二五時間の実働時間、四か月弱の期間及び一七七万五〇〇〇円の報酬費用が当業者の技術水準に照らして平均的なものであるかどうか不明であるのみならず、仮にそうであるとしても、当業者が自社で解析する場合はそのような報酬費用は必要でなく、これに相当する作業時間の労力を要するとしても、また、それが製品価格の数倍以上になるとしても、一から製品を開発するよりは低廉であり、その製品を製造、販売することによって得られる収益により補填されるものであり、更に、解析のために電子素子を基板から取り外す際、基板、銅箔線あるいは電子素子等に損傷を与え、その修復は困難であるとしても、解析のためにはいったん分解した製品を修復することは必要でなく、解析の難易と関係のないことであるから、右主張は採用することができない。

更に、原告会社は、同鑑定書では、<1>74HC373(=IC12及びIC13)の使用目的は不明(接続先のコネクタCN22が未実装であったため)、<2>μPD65005C(=IC17)の内容は不明(μPD65005Cがカスタムチップであるため)とされ、<3>九〇%の解析は可能であるが、残りの一〇%については、デジタル変換した測定結果にカスタムチップのμPD65005Cにより何らかの処理を与え出力しているので、解析が非常に困難であるとされ、この電子回路基板の解析が非常に困難である旨の鑑定の総合結論が示されており、<4>機能ブロック図は、その「二重積分型A/Dコンバータ」「デジタル表示変換回路」「7セグメントデジタル表示」が本件明細書の第1図のうちの「4 表示手段」と共通しているが、本件考案の技術内容のうちで中核となる第1図のうちの「1 割算手段」「2 規格化アナログ標準値発生手段」「3 減算手段」に該当するブロックの存在が図示されていないから、右解析によっては、本件考案(一)の技術の存在及び内容が知られていないことが明白であり、このように、原告製品の電子回路の解析は、学識者にとっても極めて困難であるから、当業者にとっても極めて困難であることが明白である旨主張する。しかし、<1>の74HC373(=IC12及びIC13)の使用目的は不明(接続先のコネクタCN22が未実装であったため)との点は、右の接続先のコネクタCN22が実装されていなくても、原告製品が本件考案(一)の実施品たりうるのであるから、右の不明との点は本件考案(一)の構成要件とは関係のない部分であることが明らかである。次に<4>の機能ブロック図の点については、「ADEX MAIN回路図」のP3/12、P4/12、P5/12、P11/12等において詳細に解析された回路は、本件考案(一)の実施例の回路と同等であり、本件明細書の第1図のうちの「4 表示手段」に相当するのは機能ブロック図(AX171A型抵抗チェッカーブロック図)の「デジタル表示変換回路」及び「7セグメントデジタル表示」の部分だけであり、その「プログラマブルゲインアンプ」「データ変換ROM」「最大測定値設定SW(BCD3桁)」の部分が第1図の「1 割算手段」に、「測定ゲイン設定SW」の一部(「ADEX MAIN回路図」のP11/12における下半分の回路)が「2 規格化アナログ標準値発生手段」に、「二重積分型A/Dコンバータ」の部分が「3 減算手段」にそれぞれ相当するものであると認められる。<2>の点及び<3>の点については、<2>のμPD65005C(=IC17)の内容は不明(μPD65005Cがカスタムチップであるため)との点も踏まえ、<3>に関して、「本装置『AX171A型抵抗器測定装置』はアナログ、デジタル両方に詳しい設計者であれば、カラーコードで表示された抵抗値、或いは、表記されたコンデンサ容量値を信用すれば解析可能。但し、その正当性を検証するには、6ヵ月の期間を要す。これで90%の解析は可能。残りの10%については、デジタル変換した測定結果にカスタムチップの『μPD65005C』によりなんらかの処理を与え、出力しているので、解析が非常に困難である。尚、オプション機能については実装されていなかった為、解析はしていない。」とされているが、それにもかかわらず前記のように本件考案(一)に相当する機能ブロック図が作成されていること及びその「ADEX MAIN回路図」に照らせば、右カスタムチップ「μPD65005C」の部分は、本件考案(一)の構成要件と関係のない部分であると推認されるのみならず、イ号製品においては、右「μPD65005C」のようなカスタムチップは一切使用されておらず、代わりに市販の電子部品が使用されていることが弁論の全趣旨により明らかであるから、その解析に困難性はない。

したがって、右解析によって、本件考案(一)の技術の存在及び内容が知られていることが明白であり、前記<1>ないし<4>のような主張を前提に、原告製品の電子回路の解析は学識者にとっても極めて困難であるから当業者にとっても極めて困難であることが明白であるとする原告会社の主張は、失当というほかない。

(四) 以上によれば、原告製品及びイ号製品の販売並びにそのカタログの頒布により、本件考案(一)は実用新案登録出願前に、少なくとも公然実施をされたものというべきであるから、本件考案(一)の実用新案登録には無効事由があるといわなければならない。

2  次に、被告会社は、イ号製品は、いずれも前訴において原告会社及び被告大前と被告会社外七名との間で平成六年一二月二日に和解が成立した時点において、既に製造、販売されていたものであり、前訴の紛争の対象製品であったのであり、一方、原告会社は、右和解成立時点において、既に本件考案(一)について実用新案権の設定登録を受けていたのであるから、形式上、差止請求権を有していたから、右和解の清算条項(第四項)の効力は、本件実用新案権(一)に基づく差止請求権にも及び、原告会社は右和解によって差止請求権を放棄したものである旨主張する。

乙第八号証(前訴の和解調書正本)によれば、右和解条項第四項は、「原告会社、被告大前及び被告会社並びに被告会社代表者外六名は、本件に関し、本和解条項に定める外、何らの債権債務のないことを相互に確認する。」というものであるが、前訴は、原告会社が被告会社及びその代表者外六名を相手方として、原告の元従業員によって設立された被告会社は原告会社の製品(AX-161A型・AX-171A型)と同一・類似の製品(RE1601型・RE1701型)を製造し、これを原告会社の販売先に対し、原告会社の製品よりも廉価で販売しており、しかも、被告会社の製品の仕様書は原告会社の製品の仕様書とほとんど同じであり、また、原告会社が独自に開発した技術をもって被告会社の製品が原告会社の製品より優れている点であると指摘する文書も配布しているところ、このような行為は正当な自由競争の範囲を超え、原告会社の営業活動を違法に妨害するものであり、これによって原告会社も対抗上やむをえず製品の価格を下げざるをえなかったため損害を被ったと主張して、損害賠償を求めた事件(京都地方裁判所平成三年(ワ)第七二二号)と、被告会社が原告会社及び被告大前を相手方として、原告会社は、被告会社が原告会社と同種類似の製品を製造、販売していることから市場において有力なライバル会社になりうることを危惧し、その営業を妨害せんと企て、被告会社が作成したRE1701型のテストデータに一部ねつ造を加え、あたかも右製品が従来の原告会社の製品より劣るかのような記載をした文書をユーザーに配布し、被告会社の営業を妨害したため、被告会社は取引先である株式会社東京ウエルズから恒常的注文を受ける約束を破棄されるに至ったとして損害賠償を求めた事件(同裁判所同年(ワ)第二三六五号)とが併合されたものであることが認められ、本件各実用新案権の存在については全く主張されていなかったのであるから、前訴ないし和解の対象となっていたとはいえず、被告会社主張のように右和解成立の時点において、イ号製品は既に製造、販売されていたものであり、原告会社は既に本件考案(一)について実用新案権の設定登録を受けていたことを考慮に入れても、右和解の清算条項(第四項)の効力が本件実用新案権(一)に基づく差止請求権にまで及ぶとはいえず、原告会社が右和解によって差止請求権を放棄したとまでいうことはできない。

3  しかしながら、前示のとおり本件考案(一)の実用新案登録には無効事由があるというだけでなく、実用新案権者である原告会社自らが本件考案(一)の実用新案登録出願前にその実施品である原告製品を販売したことにより無効事由を作出したものであり、しかも、実施品に相当するイ号製品を被告会社も出願前に販売していることを知悉しながら実用新案登録出願をして設定登録を受けたものであるから、本件実用新案権(一)に基づく差止請求権を行使することは、権利の濫用に該当し、許されないというべきである。

したがって、原告会社が被告会社に対し、本件実用新案権(一)に基づきイ号製品の製造販売等の停止及びイ号製品等の廃棄を求める第一事件の請求は、理由がないといわなければならない。

二  争点4(一)(先行仮処分事件の申立て及び第一事件の訴えの提起は、不法行為を構成するか)について

1  被告会社は、原告会社による本件各実用新案権に基づく先行仮処分事件の申立て及び本件実用新案権(一)に基づく第一事件の訴えの提起は、前訴の和解条項を無視した、紛争の不当な蒸し返しであり、また、本件各考案の実用新案登録に公知、公用という明白な無効原因があることを知りながらあえて提起されたものであるから、明らかに実用新案権の濫用的行使及び濫訴に当たり、被告会社に対する不法行為を構成すると主張する。

2  まず、前訴において成立した和解については、前記一2説示のとおりこれによって原告会社が本件実用新案権(一)に基づく差止請求権を放棄したとまでいうことはできず、本件実用新案権(二)に基づく差止請求権についても同様であり、前訴の和解手続の進行中に原告会社が本件各考案について実用新案登録出願をし、その設定登録を受けたことを被告会社に告知しなかったことは、紛争の全面的解決という観点からは批判の余地はあるが、右告知をしなかったからといって直ちに違法になるということはできない。

本件考案(一)の実用新案登録に無効事由があり、本件実用新案権(一)に基づく差止請求権を行使することは権利の濫用に該当し許されないことは前示のとおりであり、原告製品及びイ号製品が本件考案(一)だけでなく本件考案(二)の実施品でもある以上、本件考案(二)の実用新案登録にも同様の無効事由があるものと認められ、本件実用新案権(二)に基づく差止請求権を行使することも権利の濫用に該当し許されないと解されるが、本件各考案の実用新案登録についての公然実施という無効事由の存否に関する原告会社の主張は、結局は当裁判所の採用しなかったところではあるものの、実用新案権者たる原告会社の主張としては一応ありうる主張であるから、本件各実用新案権に基づく先行仮処分事件の申立ては、原告会社がその申立ての理由がないことを知りながら又は通常人であれば容易に知りえたのにあえて申立てをしたものであるとも、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであるともいえない。したがって、先行仮処分事件の申立てが被告会社に対する不法行為を構成するとはいえない。そして、原告会社が、本件各実用新案権に基づく先行仮処分事件の申立てを却下された後に、更に本件実用新案権(一)に基づく第一事件の訴えを提起したことも、仮処分事件の申立てを却下された場合でも、本案訴訟を提起する権利が保障されている以上、前同様の理由により、被告会社に対する不法行為を構成するということはできない。

また、被告会社は、先行仮処分事件の手続において、原告会社は、イ号製品のパンフレット(乙九の1~5)やイ号製品を紹介した記事を掲載した雑誌(乙一一、一三)を疎明資料として提出するについて、本件各考案の出願前に発行されたものであることを示す発行年月日を隠蔽し、あたかも出願後に発行されたものであるかのように偽装して提出したと主張するところ、確かに、証拠(被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、先行仮処分事件の手続において、原告会社は、右パンフレット(乙九の1~5)や雑誌(乙一一、一三)を疎明資料として提出するにつき、発行年月日の印刷された表紙(乙一〇の1、一二、一四)を書証として提出せず、裏表紙を表紙であるかのように写しを作成して提出したことが認められ、かかる書証の提出の仕方は、訴訟の通常のプラクティスとは異なるものであり、意図的なものが感じられないではないが、原本そのものを改竄したり虚偽の書証を作出したというものではないし、審理を混乱させたり著しく遅延させたりしたとも認められないから、この点を考慮に入れても前記結論は左右されない。被告会社は、被告会社が原告会社からの平成七年四月一七日付警告書に対して回答書を送付しているにもかかわらず、原告会社がこれを書証として提出しなかったことも非難するが、右回答書は被告会社の方から提出すれば済むことであるから、違法とはいえない。

3  したがって、争点4(二)について判断するまでもなく、被告会社の原告会社及び被告大前に対する第二事件の請求も、理由のないことが明らかである。

第五  結論

よって、原告会社の第一事件の請求及び被告会社の第二事件の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する(平成九年九月二日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

物件目録

1 型式及び品名 下記型式の抵抗測定装置

(1)RE1601型、(2)同1620型、(3)同1604型、(4)同1601P型、(5)同1701型、(6)同1701C型、(7)同1702型、(8)同1703型、(9)同1703C型、(10)同1704型、(11)同1501型、(12)同1501C型、(13)同1501V2型、(14)同1501CV2型、(15)TWA-1601型、(16)同1620型、(17)同1604型、(18)同1701型

2 型式及び品名 下記型式のコンデンサー測定装置

(19)RE6011H、(20)RE3011F

3 図面の説明

図1は正面図(型式の表示の(1)ないし(4)、(15)ないし(17)に共通)

図2は背面図(同上)

図3は偏差値出力回路図(同上)

図4は正面図(型式の表示の(5)ないし(14)、(18)に共通)

図5は背面図(同上)

図6は偏差値出力回路図(同上)

図7は図面代用の正面斜視写真(型式の表示の(19)、(20))

図8は偏差値出力回路図(同上)

4 符号・記号の説明

21・・・電源スイッチ

22・・・スタートスイッチ

23・・・フリーランニングスイッチ

24・・・ホールドスイッチ

25・・・プログラムスイッチ

26・・・データー入力スイッチ

27・・・被測定抵抗接続コネクター

28・・・標準抵抗値表示部

29・・・測定スピード切換スイッチ

30・・・リミット設定表示部

31・・・合否判定表示ランプ

32・・・測定値表示部

33・・・電源接続コネクター

34・・・プリンタ接続コネクター

35・・・コントロール接続コネクター

36・・・スタート・ホールド・ランスイッチ

37・・・標準容量値表示部

1・・・割算手段

CON1・・・D/Aコンバータ

AD7538・・・D/Aコンバータ

TM・・・デジタル入力端子

SW・・・デジタル標準値設定手段

TT・・・端子群

RR・・・抵抗群

Eln・・・測定値

AMP1・・・出力用反転増幅器

OP-07・・・演算増幅器

DS・・・デジタルスイッチ

DC・・・BCD-バイナリデコーダ

2764・・・(図面の左側の素子)ROM-IC

2764・・・(図面の右側の素子)ROM-IC

2・・・規格化アナログ標準値発生手段

AMP3・・・演算増幅器

LM741CN・・・演算増幅器

ZD1・・・ツェナーダイオード

VR1・・・可変抵抗

R4・・・抵抗

2SC1173・・・トランジスタ

2SC1815・・・トランジスタ

3・・・減算手段

AMP2・・・演算増幅器

OP-07・・・演算増幅器

R1・・・入力用の抵抗

R2・・・入力用の抵抗

R3・・・帰還用抵抗

Eout・・・偏差値

4・・・表示手段

5 構造

型式の表示の(1)ないし(18)は、計測手段と偏差値出力回路と表示手段とを備えた抵抗測定装置であり、型式表示の(19)、(20)は、同手段と同回路とを備えたコンデンサー測定装置である。

6 回路構成の説明

型式の表示の(1)ないし(20)の偏差値出力回路は、計測手段の物理量(型式の表示の(1)ないし(18)の抵抗値、型式の表示の(19)、(20)の容量値)に比例したアナログ計測値(電圧値)Elnのアナログ標準値(電圧値)Enからの偏差値を出力するものであって、

アナログ計測値Elnがアナログ帰還入力端子RFBに供給されるデジタル/アナログコンバータCON1(以下、D/Aコンバータと略す)AD7538(アナログデバイセズ株式会社製)(アナログデバイセズデータブック1993/1994年版の第4ないし7頁)と、このD/AコンバータCON1のデジタル入力端子TMに接続してアナログ標準値Enに対応したデジタル標準値nを設定してD/AコンバータCON1に与えるデジタル標準値設定手段SWと、D/AコンバータCON1のアナログ出力端子をOUT1、OUT2に入力端子が接続されて出力端子をD/AコンバータCON1のアナログ基準入力端子RREFに接続した出力用反転増幅器AMP1、OP-07(アナログデバイセズ株式会社製)から出力する割算手段1とLM741CN(ナショナルセミコンダクター株式会社製)からなる演算増幅器AMP3と、ツェナーダイオードZD1及び抵抗R4からなる基準電圧発生回路と、2つのトランジスタ2SC1173、2SC1815からなる電流増幅回路と帰還抵抗である抵抗R5を介して演算増幅器AMP3の反転入力端へ帰還し、演算増幅器AMP3の非反転入力端を設置してなる演算増幅器AMP3と入力抵抗(可変抵抗VR1等及び帰還抵抗(抵抗R6等)からなるところのアナログ標準値Enをデジタル標準値nで割って規格化した値である規格化アナログ標準値Ea=En/nを発生する規格化アナログ標準値発生手段2と、演算増幅器AMP2のOP-07(アナログデバイセズ株式会社製)と2つの入力用の抵抗R1、R2と帰還用の抵抗R3とからなるところの規格化アナログ計測値-Eln/nから規格化アナログ標準値Ea=En/nを減じて偏差値EOUT(=Eln/n-En/n)を出力する減算手段3とを備えている偏差値出力回路である。

7 作用効果の説明

測定ケーブルの測定端子に、型式の表示の(1)ないし(18)の装置においては、被測定抵抗器、型式の表示の(19)、(20)の装置においては、被測定コンデンサーを接続し(図示せず)、そのケーブルを被測定抵抗接続コネクタに接続し、データ入力スイッチ26を操作して被測定抵抗器の公称抵抗値及び被測定コンデンサーの公称容量値を入力し、標準抵抗値表示部及び容量値表示部に表示され、測定を開始し、偏差値出力回路を通って、合否判定表示部に合否の判定が表示される。この回路の作用効果は、次のとおりである。

この偏差値出力回路によれば、アナログ計測値をデジタル標準値で割って規格化し、その規格化アナログ計測値を割算手段1の出力用反転増幅器AMP1から出力し、アナログ標準値をデジタル標準値で割って規格化し、その規格化アナログ標準値を規格化アナログ標準値発生手段2から出力し、規格化アナログ計測値から規格化アナログ標準値を減じた偏差値を減算手段3から出力して、合否判定表示部31に合否の判定を表示する。

図1

<省略>

図2

<省略>

図3

<省略>

図4

<省略>

図5

<省略>

図6

<省略>

図7

<省略>

図8

<省略>

登録実用新案公報<1>

(19)日本国特許庁(JP) (12)登録実用新案公報(U) (11)実用新案登録番号

第3002508号

(45)発行日 平成6年(1994)9月27日 (24)登録日 平成6年(1994)7月20日

(51)Int.Cl.3  G01R 17/02 27/02 識別記号 R 庁内整理番号 8117-2G F1 技術表示箇所

評価書の請求 有 請求項の数5 OL

(21)出願番号 実願平6-1711

(22)出願日 平成6年(1994)3月8日

(73)実用新案権者 394004859

アデックス株式会社

京都市山科区勧修寺御所ノ内町10番地の1

(72)考案者 藤田元則

京都市山科区勧修寺御所ノ内町10番地の1

アデックス株式会社内

(74)代理人 宮井暎夫

(54)【考案の名称】 偏差値出力回路

(57)【要約】

【目的】 計測値に対してデジタル処理を行わずに、アナログ処理のみの簡単な構成で安価に、かつ高精度、高分解能で偏差値を出力する.

【構成】 アナログ計測値ElnをD/AコンバータCON1のアナログ帰還入力端子RFBに供給するとともにアナログ標準値Enに相当するデジタル標準値nをデジタル入力端子TMに供給し、D/AコンバータCON1の出力を出力増幅器AMP1を介し極性反転してアナログ基準入力端子RREFに供給することにより、割算手段1を構成し、アナログ計測値Elnをデジタル標準値nで割った規格化アナログ計測値Eln/nを得、アナログ標準値Enをデジタル標準健nで割った値を有する規格化アナログ標準値En/nを発生する規格化アナログ標準値発生手段2を設け、規格化アナログ計測値Eln/nから規格化アナログ標準値En/nを減じて偏差値Eoutを出力する減算手段3を設ける.

<省略>

1 割算手段

2 規格化アナログ標準値発生手段

3 減算手段

4 表示手段

CON1  D/Aコンバータ

SW デジタル標準値設定手段

AMP1  出力用反転増幅器

AMP2  差動増幅器

AMP3  差動増幅器

R1~R4  抵抗

ZD1  ツェナーダイオード

VR1  可変抵抗

【実用新案登録請求の範囲】

【請求項1】 計測対象の物理量に比例したアナログ計測値のアナログ標準値からの偏差億を出力する偏差値出力回路であって、

前記アナログ計測値がアナログ帰還入力端子に供給されるデジタル/アナログコンバータ(以下、D/Aコンバータと略す)と、このD/Aコンバータのデジタル入力端子に接続して前記アナログ標準値に対応したデジタル標準値を設定して前記D/Aコンバータに与えるデジタル標準値設定手段と、このD/Aコンバータのアナログ出力端子に入力端子が援続されて出力端子を前記D/Aコンバータのアナログ基準入力端子に接続した出力用反転増幅器とからなり、前記アナログ計測値を前記デジタル標準値で割って規格化するとともに極性反転した規格化アナログ計測値を前記出力用反転増幅器から出力する割算手段と、

前記アナログ標準値を前記デジタル標準値で割って規格化した値である規格化アナログ標準値を発生する規格化アナログ標準値発生手段と、

前記規格化アナログ計測値から前記規格化アナログ標準値を減じて前記偏差値を出力する減算手段とを備えた偏差値出力回路.

【請求項2】 減算手段から出力される偏差値をバーセント表示する表示手段をさらに備えた請求項1記載の偏差値出力回路.

【請求項3】 デジタル標準値設定手段がデジタル標準値を変更可能に設定するサムホイールスイッチ等のデジタルスイッチである請求項1または請求項2記載の偏差値出力回路.

【請求項4】 D/Aコンバータがデジタル制御ポテンショメータである請求項1または請求項2記載の偏差値出力回路.

【請求項5】 規格化アナログ標準値発生手段が、直流電源に接続した第1の抵抗およびツェナーダイオードの直列回路と、前記ツェナーダイオードに並列接続した可変抵抗と、この可変抵抗の摺動接点に非反転入力端子を接続し出力端子を反転入力端子に接続した第1の差動増幅器とからなり、

減算手段が、非反転入力端子を接地した第2の差動増幅器と、この第2の差動増幅器の出力端子と反転入力端子との間に接続した第2の抵抗と、この第2の抵抗と同一の抵抗値を有し出力用反転増幅器の出力端と前記第2の差動増幅器の反転入力端子との間に接読した第3の抵抗と、前記第2の抵抗と同一の抵抗値を有し前記第1の差動増幅器の出力端子との間に接続した第4の抵抗とからなる請求項1または請求項2記載の偏差値出力回路.

【図面の簡単な説明】

【図1】この考案の一実施例の偏差値出力回路の構成を示す回路図である.

【図2】D/A変換器の一例の構成を示す回路図である.

【符号の脱明】

1 割算手段

2 規格化アナログ標準値発生手段

3 減算手段

4 表示手段

CON1D/Aコンバータ

SW デジタル標準値設定手段

AMP1  出力用反転増幅器

AMP2  差動増幅器

AMP3  差動増幅器

R1~R4  抵抗

ZD1  ツェナーダイオード

VR1  可変抵抗

【図1】

<省略>

1 割算手段

2 規格化アナログ標準値発生手段

3 減算手段

4 表示手段

CON1  D/Aコンバータ

SW デジタル標準値設定手段

AMP1  出力用反転増幅器

AMP2  差動増幅器

AMP3  差動増幅器

R1~R4  抵抗

ZD1  ツェナーダイオード

VR1  可変抵抗

【図2】

<省略>

登録実用新案公報<2>

(19)日本国特許庁(JP) (12)登録実用新案公報(U) (11)実用新案登録番号

第3003658号

(45)発行日 平成6年(1994)10月25日 (24)登録日 平成6年(1994)8月17日

(51)Int.Cl.3  G01R 27/02 識別記号 A R 庁内整理番号 8117-2G 8117-2G F1 技術表示箇所

評価書の請求 有 請求項の数3 OL

(21)出願番号 実願平6-4620

(22)出願日 平成6年(1994)4月28日

(73)実用新案権者 394004859

アデックス株式会社

京都市山科区勧修寺御所ノ内町10番地の1

(72)考案者 藤田元則

京都市山科区勧修寺御所ノ内町10番地の1

アデックス株式会社内

(74)代理人 弁理士 宮井暎夫

(54)【考案の名称】 インピーダンス測定装置

(57)【要約】

【目的】 接触抵抗が測定誤差を発生する直前の値まで増加したことを知る.

【構成】 測定対象物1の一対の端子1a、1bが切換スイッチS1~S4の共通端子cにそれぞれ接触したときに接触抵抗r1、r2を介して測定対象物1に一定の電流Iを流す定電流回路2を設け、測定対象物1の一対の端子1a、1b間に現れる電圧を接触抵抗r3、r4を介して検出する電圧検出回路3を設け、測定対象物1の端子1aに関する接触抵抗r1、r3の合成抵抗(r1+r3)を測定する接触抵抗測定器4を設けるとともに、測定対象物1の端子1bに関する接触抵抗r3、r4の合成抵抗(r2+r4)を測定する接触抵抗測定器5を設け、両合成抵抗(r1+r3)、(r2+r4)に対応した接触抵抗対応電圧E2、E3が所定のしきい値E3を超えたときに接触抵抗異常検知出力を発生する比較器8、9を設ける。

<省略>

【実用新案登録請求の範囲】

【請求項1】 共通端子に測定対象物の一方の端子が接触する第1の切換スイッチと、

共通端子に前記測定対象物の他方の端子が接触する第2の切換スイッチと、

共通端子に前記測定対象物の一方の端子が接触する第3の切換スイッチと、

共通端子に前記測定対象物の他方の端子が接触する第4の切換スイッチと、

前記第1の切換スイッチの一方の切換端子と前記第2の切換スイッチの一方の切換端子とに一対の電流出力端子をそれぞれ接続し、前記第1および第2の切換スイッチのそれぞれの一方の切換端子側切換時に、前記第1の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の一方の端子との間の接触抵抗および前記第2の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の他方の端子との間の接触抵抗を介して前記測定対象物に一定の電流を流す定電流回路と、前記第3の切換スイッチの一方の切換端子と前記第4の切換スイッチの一方の切換端子とに一対の電圧入力端子をそれぞれ接続し、前記第3および第4の切換スイッチのそれぞれの一方の切換端子側切換時に、前記測定対象物の一方および他方の端子間に現れる電圧を、前記第3の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の一方の端子との間の接触抵抗および前記第4の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の他方の端子との間の接触抵抗を介して検出して前記測定対象物のインピーダンス対応電圧として出力する電圧検出器と、

前記第1の切換スイッチの他方の切換端子と前記第3の切換スイッチの他方の切換端子とに一対の入力端子をそれぞれ接続し、前記第1および第3の切換スイッチのそれぞれの他方の切換端子側切換時に、前記第1の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の一方の端子との間の接触抵抗および前記第3の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の一方の端子との間の接触抵抗の合成抵抗を測定して第1の接触抵抗対応電圧を出力する第1の接触抵抗測定器と、

前記第2の切換スイッチの他方の切換端子と前記第4の切換スイッチの他方の切換端子とに一対の入力端子をそれぞれ接続し、前記第2および第4の切換スイッチのそれぞれの他方の切換端子側切換時に、前記第2の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の他方の端子との間の接触抵抗および前記第4の切換スイッチの共通端子と前記測定対象物の他方の端子との間の接触抵抗の合成抵抗を測定して第2の接触抵抗対応電圧を出力する第2の接触抵抗測定器とを備えたインピーダンス測定装置.

【請求項2】 第1の接触抵抗測定器の出力電圧を所定のしきい値と比較し前記第1の接触抵抗測定器の出力電圧が前記所定のしきい値を超えたときに接触抵抗異常検知出力を発生する第1の比較器と、第2の接触抵抗測定器の出力電圧を前記所定のしきい値と比較し前記第2の接触抵抗測定器の出力電圧が前記所定のしきい値を超えたときに接触抵抗異常検知出力を発生する第2の比較器と、前記第1および第2の比較器の出力を合成する論理和回路とをさらに備えた請求項1記載のインピーダンス測定装置.

【請求項3】 測定対象物が抵抗器である請求項1または請求項2記載のインピーダンス測定装置.

【図面の簡単な説明】

【図1】この考案の一実施例のインピーダンス測定装置の構成を示す回路図である.

【図2】図1のインピーダンス測定装置の具体的な構成を示す回路図である.

【図3】従来のインピーダンス測定装置の一例の構成を示す回路図である.

【符号の説明】

1 測定対象物

1a、1b 端子

2 定電流回路

2a、2b 電流出力端子

3 電圧検出器

3a、3b 電圧入力端子

4 第1の接触抵抗測定器

5 第2の接触抵抗測定器

8 第1の比較器

9 第2の比較器

【図1】

<省略>

【図2】

<省略>

【図3】

<省略>

和解条項

一 甲事件原告、乙事件被告のアデックス株式会社(以下「原告アデックス」という。)、乙事件被告の大前榮(以下「被告大前」という。)及び甲事件被告、乙事件原告のアール・エス・ティエンジニアリング株式会社(以下「被告アール・エス・ティエンジニアリング」という。)並びにその余の甲事件の被告山本信行外六名の被告ら(以下「その余の被告ら」という。)は、本件紛争が生じたことをそれぞれが反省する。

二 原告アデックス、被告大前及び被告アール・エス・ティエンジニアリング並びにその余の被告らは、本日以降、互いに相手方の信用、権利、利益を侵害し、または業務の妨害となるような行為をしないことを相互に確約する。ただし、原告アデックスと被告アール・エス・ティエンジニアリングは、各自の取引先に対して本件係争に関して和解が成立した旨及び和解内容を知らしめることができる。

三 原告アデックス及び被告アール・エス・ティエンジニアリングは、それぞれ相手方に対する損害賠償請求権を放棄する。

四 原告アデックス、被告大前及び被告アール・エス・ティエンジニアリング並びにその余の被告らは、本件に関し、本和解条項に定める外、何らの債権債務のないことを相互に確認する。

五 訴訟費用は各自の負担とする。

以上

登録実用新案公報

<省略>

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登録実用新案公報

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